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お笑い評論家ラリー遠田さん、「チコちゃんに叱られる!」にハマる人の心理

東洋経済On lineに、作家でお笑い評論家のラリー遠田さんの記事が載ってました。


「チコちゃんに叱られる!」にハマる人の心理




たしかに、NHK特有の「お勉強臭さ」がないとか、悪ふざけの質や量がほどほどに抑えられているとか、「笑える」だけじゃなく、時に「考えさせられる」とか、鋭い視点でとらえられているのはさすがですね。


これからも、ますます番組が楽しみですね。



「チコちゃんに叱られる!」にハマる人の心理


「半分、青い。」と並ぶNHKの二枚看板


現在のテレビバラエティ業界では「日テレ独り勝ち」の状態が長く続いています。ビデオリサーチ社が発表している「週間高世帯視聴率番組」のランキングでも、バラエティ(その他の娯楽番組)部門ではベスト10の大半を日本テレビの番組が占めています。日本テレビは『世界の果てまでイッテQ!』『有吉ゼミ』『行列のできる法律相談所』『笑点』『ザ!鉄腕!DASH!』などの安定して高い人気を誇る番組を多数擁していて、他局の追随を許しません。


そんな中で、孤軍奮闘を続けているNHKのバラエティ番組があります。4月にレギュラー放送が始まった『チコちゃんに叱られる!』(NHK総合 毎週金曜 午後7時57分~ | 再放送 毎週土曜 午前8時15分~)です。金曜夜8時台のゴールデンタイムでもまずまずの視聴率をキープしているうえに、土曜朝8時台の再放送の人気も高いのです。7月14日放送の再放送回は13.9%(関東地区)という驚異的な視聴率を記録しました。


連続テレビ小説『半分、青い。』の直後の時間帯に放送されているというのも高視聴率の要因ではありますが、それだけではないでしょう。番組自体の面白さがその数字につながっているのです。


決め台詞は「ボーっと生きてんじゃねーよ!」


『チコちゃんに叱られる!』は、日常に潜む素朴な疑問をテーマにした雑学クイズバラエティです。スタジオでは、おかっぱ頭の5歳の少女「チコちゃん」というキャラクターが、ナインティナインの岡村隆史やゲストたちに質問を投げかけます。


その質問は「人と別れるときに手を振るのはなぜ?」「セピア色のセピアって何?」「大人になるとあっという間に1年が過ぎるのはなぜ?」というような、改めて考えてみると答えがよくわからない根本的な問題ばかり。


そんなチコちゃんの質問に対して出演者が上手く答えられないと、一瞬にしてチコちゃんは怒りの形相に変わり、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と叫びます。その後、チコちゃんの口から解答が告げられ、VTRでその詳細が明かされます。構造としてはきわめてシンプルな雑学クイズ番組です。なぜこれほどの人気を集めているのでしょうか。その理由は大きく分けて3つあります。


第1に、番組の代名詞になるような「キャッチーな演出」がある、ということ。

たとえば、2002年から2012年にかけてフジテレビで放送されていた雑学バラエティ『トリビアの泉』では、スタジオにいるゲストがどのくらい感心したのかに応じて「へぇボタン」を連打すると、その回数だけ「へぇ、へぇ」という効果音が流れる仕掛けになっていました。


『トリビアの泉』のことを考えると真っ先に「へぇボタン」のことが思い浮かぶ、という人は多いはず。1つの新しい画期的な演出があると、それだけで視聴者の気持ちをひきつけることができるのです。


『チコちゃんに叱られる!』の売りは、何と言ってもクイズの出題者がチコちゃんという5歳の少女であること。チコちゃんは年齢に似合わず大人にも生意気な口を利き、昔のことでもよく知っています。そして、上から目線でゲストたちに質問を投げかけます。


単なる「上から目線」は嫌われてしまいがちなものですが、小さい女の子が言っていると思うと何となく許せてしまうから不思議なものです。むしろ、こんな小さい子が知っていることを自分は知らないのだと思うと、焦りさえ感じてしまいます。質問を突きつけられたゲストも、それを見ている視聴者も、5歳児にいいように振り回されてドキドキした気分を味わい、それを楽しんでいるのです。


そんなチコちゃんが発する「ボーっと生きてんじゃねーよ!」という決め台詞も印象的です。このフレーズは一度聞いたら忘れられません。チコちゃんに叱られることで大人たちは改めて気付かされます。知っているつもりで知らないことが世の中にはたくさんある、ということに。


NHK特有の「お勉強臭さ」がない


第2に、番組全体が民放っぽい軽いノリで作られている、ということです。スタジオでは、チコちゃんとゲストたちがアドリブ感の強い軽妙な掛け合いを繰り広げます。チコちゃんには、たとえば大竹まことのことを「シティボーイズ」と呼んだり、田中美佐子のことを「みちゃみちゃ」と呼んだりするような遊び心があります。大人の無知を暴こうとするチコちゃんと、それが見つからないように必死で取り繕うゲストたち。この緊張感のあるやりとりが見ていて面白いのです。


さらに、この番組はVTRの作り方にも工夫があります。専門家に話を聞いたり、実験をしてみせたりして、基本的には質問に対する解答に至るまでの過程を丁寧に見せていくのですが、本筋とは関係ないところでおふざけ的な演出が随所に挟まれます。わざわざ鶴見辰吾などの有名俳優を起用して再現VTRを作ってみたり、何かと手が込んでいるのです。


この番組のプロデューサーである小松純也は、フジテレビで『ダウンタウンのごっつええ感じ』『笑う犬の生活』などの人気バラエティ番組に携わってきた人物。民放のバラエティを作っているようなスタッフが手がけているため、スタジオもVTRも軽いつくりになっていて、悪い意味でのNHKらしい「お勉強臭さ」がないのが魅力的です。


ただ、そこに含まれている悪ふざけの質や量がほどほどに抑えられているのも見事です。民放のバラエティだと際限なく刺激的な笑いを求めてしまいがちなものですが、そこはNHKだけあって、下品になりすぎないような配慮が感じられます。そのポイントが押さえられているからこそ、ファミリー層も安心して楽しめる番組になっています。


第3に、そもそものテーマ設定が面白い、というのも見逃せません。どれだけ演出にこだわっても、題材となるテーマ自体が面白くなければどうしようもないのです。その点、この番組ではテーマ選びのセンスが抜群です。質問を見て思わずハッとさせられるだけではなく、答えを聞いてさらに驚かされます。思考の盲点を突かれる快感と同時に、答えを聞いて新たな発見をする納得感も味わえるのです。


恐らく、「テーマ自体が面白い」という自信があるからこそ、そこに余分なものを足したりせずに、極力シンプルな演出で見せているのでしょう。食材のクオリティに自信があれば、シェフは調理方法に気を使う必要はありません。切るだけ、焼くだけの単純な調理だけで素材の良さが引き出されることになります。


「笑える」だけじゃなく、時に「考えさせられる」


この番組で扱われるテーマは、ただ「なるほど」と納得して終わるようなものばかりではありません。見る人の心に何かを残すような深みを感じさせるテーマもあります。


たとえば、「親と一緒に過ごせる残り時間は?」という疑問が取り上げられたことがありました。大人が別居している親と過ごす時間は平均して1年にたった1日(24時間)程度。つまり、「親の余命年数×1日」が親と過ごせる残り時間ということになります。具体的な数字を突きつけられると、驚くほど短いと感じる人が多いのではないでしょうか。このように、何かを考えさせられるようなテーマがときどき出てくるのも面白いところです。


近年、民放のバラエティ(特にゴールデンタイム)はどんどん演出過多になっていく傾向があります。瞬間瞬間でチャンネルを変えられないように、つねに何かが起こっている状態を作り出そうとします。CM直前などに、次に出てくる人物のシルエットだけを見せたりして興味を引いたりするのも常套手段です。それが時として視聴者に息苦しい印象を与えてしまうことがあります。


その点、『チコちゃんに叱られる!』はガツガツしていない上品なつくりの番組です。ところどころに民放っぽいノリが感じられますが、根底に流れる空気はゆったりしています。


それは、この番組で扱うテーマが日常の中にあるものだからではないでしょうか。私たちは生意気盛りのチコちゃんに導かれて、新しい知の扉を開くのではなく、すぐそこにある日常を再発見するのです。彼女は、雑事に追われてあくせくしないで目の前にあるものを見つめ直す大切さを私たちに教えてくれているのかもしれません。

「チコちゃんに叱られる!」にハマる人の心理 「半分、青い。」と並ぶNHKの二枚看板

(東洋経済 on lineより)




ラリー遠田(らりーとおだ)
Larry Tooda

作家・ライター、お笑い評論家
主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手掛ける。お笑いオウンドメディア『オモプラッタ』の編集長を務める。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、 『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)など著書多数。
(東洋経済 on lineより)

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